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サイボーグ父さんの『患者道』

第16回
どっちが早い? ICDの電池切れと定年退職

サイボーグ父さん(60代,会社員)です.
患者目線で,現在の高度な医療を体験して感じたことをお伝えしていきます.

ICDの電池残量の確認

 定期的に受診するペースメーカー外来では,ICD本体を点検するが,そのたびに「バッテリーの残存年数」,つまりICDの電池があと何年持つのかを教えてくれる.「ICDの寿命はもともと作動状況など患者の状態によって変わるので,一定期間を保証するものではない」ことは,ICDのリコールの際に,メーカーの弁護士からも聞かされている(第9回 体に植え込んだICDに突然のリコール).ペースメーカー外来のたびに,残存年数を聞き,自分なりにICDの交換の時期を想定.そのためにいつ,何が必要になるのかを思い浮かべることになる.

 電池が切れたからといって,電池だけを交換することはできないし,現在,スマホなどで可能になっているような,非接触での充電ができるわけではないので,手術をしてICD本体をそのときの新しいものと交換することになる.ただいずれかの時期に非接触でのICDの充電が可能になるのではないかという期待があるし,決して不可能ではないとサイボーグ父さんは勝手に思っている.そうなれば,患者にとって,電池切れに伴い数年に1回訪れる交換手術の負担がなくなるということになる.

 

 

ICDのリードの断裂と抜去

 技術の進歩への期待はさておき,ICD患者の会では, ICDの交換をしている「先輩方」の体験談やゲストの医師の講演を聞くことができるのはありがたい.ICD本体から伸びる「リード」とよばれる電気ショックを心臓に伝える線.これに問題がなければ,最初に植え込む手術に比べ,その分の手術の時間も短くて済むようだ.サイボーグ父さん自身も,ICDを植え込んだ際に,リードを入れる血管を探したり,固定したりする作業に時間をかける医師同士の会話を耳にしており,その話は腑に落ちる.

 だがICDを植え込んでから年月が経つと,電池切れとは別に,「リード」が断裂した不具合や感染症を併発するケースの報告も耳にすることがあった.血管の中を通して心臓に至る「リード」は心臓の収縮に合わせて曲げ伸ばしが起きる.当然,そうした曲げ伸ばしに耐えられるように設計・製造されるわけだが,様々な要因で,現実にリードが切れてしまうことがある.

 リードは植え込んでからの年数が長ければ長いほど周りの血管などに癒着して抜くのが困難になる.リードをけん引しても抜けない場合は,胸を切り開いて心筋などに癒着したリードをはがす必要が出てくるケースもある.このためリードが切れた場合は,抜かずに放置して,別の血管から新しいリードを入れ直すという措置がとられることもあるようだ.場合によっては,ICD本体を植え込む位置を,例えば左胸から右胸に変えてリードも入れ直すことも.患者にしてみれば,切れて使わなくなったリードをそのままにしておくことは,気分の良いものではないだろう.

しかし「エキシマレーザー」というレーザー光線を使い,心臓を切り開くことなくリードの癒着をはがし,抜去する手法が開発され,日本でも2010年代に入り保険診療として認められた.抜こうとするリードにそれより少し太い,「レーザーシース」とよばれる筒状の機材をかぶせ,シースの先端からレーザーを発射して,癒着した組織をはがしてゆくものだ.これを受けてリードの抜去に対応できる病院も全国に広がりつつある.ただ日本不整脈心電学会は「経静脈リード抜去は相応の危険を伴う」(平成30年2月 日本不整脈心電学会「リード抜去手術に対するステートメント(改定)」)と指摘し,医師や施設に求められる条件を公表している.最先端の事例の情報交換などを目的とする「リード・マネージメント研究会」という団体のホームページには,全国の「リード抜去ができる施設」として60以上の病院と携わる医師の名前が紹介されている.

 

 

リードを血管に通さないS-ICDとは

 リードの問題に対する別の解として,血管にリードを通さないICD,「S-ICD」という機器も登場している.こちらは2016年から保険適用となっている.ICD本体は胸でなく左の脇の下に植え込み,リードは血管でなく皮下を通すことで切れにくく,抜去も比較的容易なようだ.

 この話を聞いたときに「それは良い.ICDを入れ替えるときはS-ICDにしよう」と思ったものだが,よく聞くとこのタイプは,心室頻拍が起きたときに,頻拍より少し早い周期でのペーシングをして頻拍を止める「抗頻拍ペーシング」の機能がなく,サイボーグ父さんには向かないということだった.残念.

 

 

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