お役立ち満載

サイボーグ父さんの『患者道』

第9回
体に植え込んだICDに突然のリコール

サイボーグ父さん(60代,会社員)です.
患者目線で,現在の高度な医療を体験して感じたことをお伝えしていきます.

メーカーから突然のメール

 職場に復帰したその月の下旬にメーカーから届いた突然のメール.

「ICDで除細動治療をするための高電圧ショックを出力する際,出力までの充電時間が延長される可能性があることが判明しました.しかし不具合の原因は突き止められていて,また発生の可能性は稀であることから,重篤な健康被害に至る可能性は低いと考えられます.ただ医療機関に対し,対象となる機器を使用している患者様とそのフォローアップの方法をお知らせするために,自主的な回収を行うことになりました」 というものだった.

 これに関してメーカーの発表資料では「32秒経過した時点で,充電が不十分であった場合,除細動治療に十分な高電圧ショックが出力されない可能性があります.その場合,重篤な健康被害に至る可能性を完全には否定できません」ともあった.

 自主回収? リコールのことか.自分の体の中に入れた機械を当のメーカーが回収するって一体どういうことだ.何がなんだかよくわからない.ICDは不良品なのか.交換する手術をする必要があるのか.

 メールは続く.

 

 

遠隔モニタリングでは異常なし

「遠隔モニタリングで送信された(サイボーグ父さんの)最新のデータは上記の不具合に当てはまる点はありませんでした」

 なんだ.とりあえずは今のところ異常はないのか? しかし体内のICDが計測したデータを自動的に送る遠隔モニタリングは1日1回で,しかもICDが作動しなければ,「異常なし」となるのでは? これは患者の体に「異常がない」だけで,体に異常が起きたときにICDが正常に動くことを示すものではないのでは.それとも機械自体の異常も検知できるのか.メーカーの発表資料には「この不具合が発生するとICDが振動して患者様にお知らせします」ともある.でも知らされても不十分なショックになるので手遅れでは?

 リコールというからには役所に届け出ているはずだから,そこには一体どう書いてあるのか.ICDのような医療機器のリコールを受け付けるのはそもそも一体どこの役所だ.

 インターネットの検索サイトに「ICD」「医療機器」「自主回収」といったキーワードを入れると,

『医療機器自主回収のお知らせ(クラス1) |報道発表資料|厚生労働省』

という見出しが引っかかった.「クラス1」って一体なんだ?

 厚生労働省のホームページからさらにリンクをたどると東京都が出したプレスリリースの方に,「クラス1」の定義があったのだが,何と書かれていたかと言うと

「クラス1:その製品の使用等が,重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る状況をいう」

 とある.もっとも

「現在までに国内海外ともに重篤な健康被害が発生したとの報告はありません.」とも書いてはあるが,一番重いクラスのリコールのようではないか.とにかく医師に確認しよう.

 

 

father08

 

 

監視の強化で対応

 数日後,病院を訪れ主治医に尋ねる.

「私の体のICDはどこまで問題なのですか.メーカーの説明を聞いても,どうもよくわからなくて」

 メーカーや医師の説明を総合すると,ICDの機器の中には,心室頻拍を検知すると心臓に電気ショックをかけるために,つまり放電するための充電を始める.それに関係するICD内部の絶縁体はプラスとマイナスのものが交互にあるのだが,それが一部ゆがむとフルパワーでないままで放電が行われ,「重篤な健康被害に至る恐れは完全には否定できない」ということだった.さらにメーカーの発表資料では「重篤な健康被害の推定発生率は3万1千件に1件,また不十分な治療による死亡の推定発生率23万8千件に1件」ということだ.

「3万分の1とか,23万分の1といった発生確率って,どれだけ危ないと考えればよいのでしょうか? 私の体に植え込んだICDは手術で取り出して,交換する必要はあるのでしょうか?」

「お気持ちはごもっともかと思います.ただあなたのICDには現実にそうした不具合は今の段階では発生していません.また手術となるとまた心身のご負担がかかります.わざわざ交換するのではなく,ただし定期検査の間隔をこれまで考えていた半年に1回から4か月に1回に間隔を狭めて,監視を強めてはと思います」

「その場合は,検査の回数が増えるわけですが,その分ICDの電池の消耗が進むので,結果的にICDの寿命が短くなるのでは」

 監視を強化することのいわば副作用である.この辺はどうも微妙なようで,明言はしなかったが,ある程度ICDの寿命が短くなる恐れはあるようだ.機器自体にいまのところ問題がなくても,そうした対策とそれに伴う副作用が発生することについては,メーカーの責任ってどうなるのか.