お役立ち満載

サイボーグ父さんの『患者道』

第5回
患者自身がICDを選ぶ

サイボーグ父さん(60代,会社員)です.
患者目線で,現在の高度な医療を体験して感じたことをお伝えしていきます.

費用はおよそ500万円、本人負担は?

ICDを植え込む費用は,サイボーグ父さんが植込んだ時点で,本体価格がおよそ300万円で、これに手術費や入院費用を含めると500万円近くに達していた.ただし健康保険の適用の対象になっており,本人負担は3割なのでおよそ150万円.これでも結構な金額になる.ところがここでもう1つの制度がある.「高額療養費」の払い戻し制度だ.1か月の医療費が一定金額を超えると,その分を払い戻してくれる制度だ.所得に応じて最終的な自己負担額に差がある.サイボーグ父さんの場合は,当時の制度で

 

15万円+(総医療費−50万円)×1%

 

という計算式だった.この結果,そのほかの費用を含めても30万円で収まった.

テレビなどでは医療保険のコマーシャルを目にすることが多いが,日本の健康保険制度はある面結構しっかりしている.一人ひとりケースやニーズは異なるが,健康保険に加えて医療保険はどこまで本当に必要なのだろうか.医療保険の場合は,加入者が保険会社に払う保険料(払い込む期間の総額)と,何かあった時に保険会社が加入者に支払う金額の双方を,よく考えた方が良いと思った.健康保険とは別に,保険会社に保険料を払うつもりで,その分を預金なり(無いものと思って絶対に使わないという強い意思が前提)で貯蓄しておけば,何もなければそれを別の用途に使うこともできるという面はある.

ただ保険のきかない最先端のがん治療等では適用されないので,病気次第ではあるし,日本が突入する超高齢化社会では,今の制度が長続きするかという問題もある.実際に所得が多い人の負担額を引き上げる改正が行われ,現在では69歳以下の場合は以下のような自己負担額になっている.

 

<69歳以下の場合>

適用区分 ひと月の上限額(世帯ごと)
年収約1,160万円~ 252,600円+(医療費-842,000)×1%
年収約770万円~約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000)×1%
年収約370万円~約770万円 80,100円+(医療費-267,000)×1%
~年収約370万円 57,600円
住民税非課税者 35,400円

 

 

自分の体に入れるICDを3つのメーカーから自分自身で選ぶ

 セカンド・オピニオンを経て,もとの病院で正式にICDを入れることを主治医に告げた.その時主治医に,この病院は何社のICDを扱っているのかを尋ねたところ、3社でまだどこのメーカーのものを使うかは決めていないとのことだった.

「メーカーによって性能や価格に違いはあるのですか」と質すと,「保険の適用があるので,患者さんご本人の負担額に差はないと思いますが,大きさや機能は微妙に違います.メーカーの話をお聞きになりますか」という.実際に自分の体に入れる機械である.リクエストしたところ,メーカー3社の担当者と話す機会をセットしてくれた.医療機器は日進月歩だが、この時は遠隔モニタリングやMRI対応などの機能がICDへの実装が進んでいる時期である.メーカーの担当者にすれば自社の製品の採用は医者など病院関係者に働きかけるのが普通で、エンドユーザーとなるかどうかわからない段階で、患者本人に説明させられるのは、さぞ面食らったことだろう。

最初のメーカーは本体の厚さが1センチを切る薄さが売り物だ.メーカーの担当者がおもむろに厚めの単行本くらいの大きさの四角い機械を目の前に置いた.ICDは体に植え込む本体だけでなく,この装置がワンセット.1週間に1回,体の中に植え込まれた本体から作動状況などのデータを非接触で取り出し,内蔵された携帯電話でメーカーのサーバーに送信.異常が発見されると主治医に自動的に連絡が行く.いちいち病院に検査に行くことなく,後追いだが遠隔モニタリングが受けられる.データを取り出すのは患者自身で,先端にドーナッツくらいの輪のついたセンサーを胸のICDの上のあたりにかざすだけでよい.操作自体は難しくはなさそうだった.

 

 

寝ている間にデータが自動送信で医師のもとに

 2社目のICDは前の会社よりも本体は若干厚いがバッテリーの寿命が長いのが売り物.データは毎日1回,寝ている間に自動的に機械が取得し、メーカーのサーバーにアップする.そこはまったく患者本人の手を煩わせることがない.

3社目はMRI(磁気共鳴画像)検査に一部対応している.強い磁気を使用するMRIの検査は,ICDに干渉する.このためいったんICDを入れるとMRI検査が受けられなくなるのだが,このメーカーの機器は,ICDのある胸の部分は撮れないが,頭とか手の先,下半身はOKとのこと.ただ機器の厚さも重さもそれなりになる.データのアップロードはこちらも自動で,寝ている間に送ってくれる.

3社の話を聞いた後で主治医が待っていた.先生のお勧めはどこかと素朴な疑問を投げかけると.

「一長一短がありますね.MRIが必要になるかどうかというのは,今後あなたがどんな病気にかかるのか次第ですが,それは予測できません.データの自動送信も患者さんがどうお考えになるかです.データを送信するときには若干体に負荷がかかります.寝ていると気が付かないこともありますが,手動の方が本人に心構えがあるだけにびっくりすることはないです.」

 確かに一長一短あるようだ.機器の選定は入院するときまででよく,医師としてはどこかのメーカーに誘導するようなことは言わない.要するに3社のどれでも問題はないということだろう.結局,後日,機器の薄さや電池の寿命の長さなどを考えて,2社目をリクエストし,医師も了承した.

 

 

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