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今知りたい医療・看護のこと

第9回
働き方の選択
興味があるところからまずはじめよう

成瀬 昂

成瀬 昂 Takashi Naruse

東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 地域看護学分野 講師

岩本 大希

岩本 大希 Taiki Iwamoto

ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 看護師・保健師

初めの選択がすべてではない!

岩本 大希

卒業して病院に就職し臨床の看護師になる人はもちろん1番多いですが,僕の同級生や先輩後輩の中には,卒業後,それ以外のいろんなことをやっている人もいます.たとえば,起業する人,企業や行政の保健師になる人,医療系のシステム会社やコンサルテーション会社に就職する人,看護とは関係なく一般の会社に就職する人……,タレントやモデルになった人もいます.

成瀬 昂

たくさんの選択肢がありますね.もし,積極的にやりたいことがあれば,看護師資格に縛られることなく,それをやればいい.でも,そうでないなら,とりあえず身近なところに看護師として勤めてみるのもいいと思います.十代後半,二十代前半で,これから先の長い将来を見据えて進む道を決めるのはなかなか難しいです.だから,やりたいことが明確でないから,とりあえず進んでみて様子をみるというのは計画的だと思います.

ただ実習がつらくて「自分には向いてない」と逃げて,違うことに目を向けるのはよくないですよね.

岩本 大希

言葉は悪いですが,短絡的に逃げてほかに行ってしまうと,結局何をしてもすぐ興味がなくなってしまうと思うんです.

最初の就職先の選択は人生の大きな選択と思いがちですが,そんなことはありません.実際には,働いていくなかで興味の対象は変わってくるし,みなさん,きっと途中で,異動届を出したり,転職したり進学したり,さまざまな変化があると思います.

3年ごとくらいに選択していくという気持ちでリラックスして考えるとよいのではないでしょうか.

成瀬 昂みなさんはまず,看護師資格を取って選択肢を作る.それでいいと思います.
  

ポジティブな転職動機を聞いてみよう

岩本 大希

もし,進路について先輩にアドバイスを聞くとしたら,1年,2年くらいのすぐ上の先輩ではなく,1度か2度は転職を経験している先輩に聞くことをおすすめします.

なぜ今の仕事を選んだのか,とくに,ネガティブなことではなく,よかったことを聞いてみるといいですね.

転職にはきっとポジティブな理由もあるはずなので,“なぜ”を聞くと,自分の興味・関心が変わったとか,プライベートの環境が変わってワークライフバランスを考えるようになったとか,一念発起して保健師に転向したとか,けっこうみんなおもしろいですよ.

それを聞いたうえで,ではなぜ最初の仕事を選んだのかと尋ねてみるといいです.

岩本 大希

今,訪問看護をしている僕の知り合いは,小児科よりも興味がある病棟が明確にあったのですが,就職するときに,第三希望にしていた小児病棟に配属されました.そこで5,6年働いていたのですが,実際働いてみたらすごくよかったそうです.

そして,働くなかで,「この子たちが家に帰れないのは悔しい」「家に帰れる子を自分が増やしていきたい」という気持ちになってきて,今の,小児を対象とした訪問看護の仕事につきました.

仕事って,そうやって興味がわいてどこかへつながっていったり,そうせざるを得なくなったりして,決めていくものだと思います.

それが,社会に何かを提供して,それに対してお金をもらうっていうコトに変わっていくんです.

  

みんなの軌道が重なってジェネラリストの集団になる

成瀬 昂

学生からは,多くの看護師たちがどんな変遷をたどっているのか見えづらいですが,看護のフィールドの中でそれぞれ,さまざまな軌道で異動や転職をしていっていますよね.その1人ひとりが描いている軌道を重ねると,看護のフィールドを縦横無尽に埋め尽くすことになります.

1人では,全部の分野を網羅しているわけではないけど,ほかの人と互いに補うことで,補完される.だから安心してジェネラリストの集団とよべるのだと思います.

岩本 大希

ジェネラリストというと,これまでは頭の先からつま先まで,すべての人体の臓器をみられる人というような考え方でしたが,今後は,集中治療,オペ,回復期,療養期,在宅,コミュニティと,その患者さんの“やまい”のプロセス全体にかかわる人というように軸が変わってくると思います.

どこからキャリアをスタートするかは,そのプロセスの中のどのステップに自分が興味を寄せているかで決められるのではないでしょうか.

それをやっていく中でまた,興味が変わったり,問いができたりもすると思います.そのときに次はこっちに進もうとか,このステップをもっと極めようとか決めていくといいと思います.

成瀬 昂

それはいい考えですね.今までの「どの病棟がいいか」ということに加えて,集中治療やオペなどで扱うような身体の中のことまで興味があるのか,快適に過ごしてもらえるよう病院の中でのことに興味があるのか,病院内から退院して外に出て行くところに興味があるのか,ということなども議論できたらいいですね.興味が身体の中にあるか,外にあるかは,人によってわりと明確に分かれる部分でもあると思います.

岩本 大希

病棟もそうやって分かれている部分もあるので,選ぶためにその視点は大切ですね.

成瀬 昂

とはいえ,学生のみなさんにとって,看護のフィールドの全体像をイメージして,自分の興味があるところを説明するのは難しいと思います.それは,どれだけの領域があって,みんながそれぞれどこで働いているのかがどこにも示されていないからでもあると思います.

次回は,便利なツールを使って,それをイメージし興味のあるところを説明するお手伝いをしていきたいと思います! 楽しみにしていてください!