お役立ち満載

国際化社会と看護

第11回
異文化の中で暮らす患者の不安

小笠原 広実 Hiromi Ogasawara

医療法人 偕行会法人本部海外戦略部
公益財団法人 日本アジア医療看護育成会(研究員)

インドネシアに駐在し,日本で働くことを目指す看護師の支援をしています!

 

 

考えの理由を尋ね,不安を感じとる

すでに病院実習で患者さんの受け持ちを体験した看護学生のみなさんは,“患者さんの思いをとらえる”ことがとても難しいことを実感されているのではないでしょうか.

 

患者さんは,すべての思いを話してくれるわけではないので,看護をするために必要なことを意図的に尋ねない限りは,大切な情報を得ることができません.日本人同士でも難しいのですから,インドネシア人看護師が,日本人患者さんを相手に日本語でかかわるときにはなおさら難しくなります.

 

第9回で,インドネシアに駐在する方に多い病気に膀胱炎があることをお伝えしました.ある日本人の患者さんが,“菌の培養検査をしても原因を特定できないのはどういうことか”と聞いてきて,現地スタッフが困っていたことがありました.

 

わたしは,その患者さんは“なぜそこまで菌の培養にこだわるのだろうか,そこには何か理由があるはず.それよりも,膀胱炎を繰り返しているということは,免疫力が低下してしまう生活習慣や,水分摂取が少ない可能性が考えられるので,その生活調整をすることが重要ではないか”と考え,直接話をしてみようと思いました.

 

患者さんは,私が日本人の看護師であることがわかると,膀胱炎を繰り返している経緯や不安について一気に話してくださいました.そして,「インドネシア人の看護師さんは,私の言いたいことをわからないまま,インドネシア人医師に通訳しているようだ」というのです.

 

その方は数年間インドネシアに住んでいるので,自分で詳細を医師に伝えることができなくても,会話のおおよそは聞き取ることができたそうです.そのため,自分の思いが医師にしっかりと伝わっていないと感じて,余計に不安が膨らんでいたのだと思いました.

 

そして,なぜ菌を培養しようと思ったのかを尋ねると,「どこで感染したのか,アパートのジャグジー,プール,または自宅の入浴漕なのかがわかれば,それを避けることができるのではないか」とのこと.さらに友人にも膀胱炎になった人がいるし,水も清潔ではないと聞くし,プールやジャグジーも衛生面が心配だと話されました.

 

このような不信感が根底にあり,菌の特定をすれば,感染の原因となる場所の特定に結びつき,予防行動がとれるはずだと考えていたようです.

 

そこで,一般的に膀胱炎を起こすのは,ブドウ球菌や大腸菌など,どこにでもいる菌なので,それを特定してもあまり意味がないことを伝えると納得されました.