看護教員がおくるリレーエッセイ
- 第2回
- 臨地実習でしか学べないこと
瀬戸 奈津子 Natsuko Seto
関西医科大学看護学部設置準備室 教授
私は成人看護学(慢性期)領域の講義・演習・実習指導を担当している教員です.慢性期領域における入院患者さんの受け持ち実習は,発達段階では青年期から老年期の幅があり,疾患も病期も多種多様であり,それに伴い治療法もさまざま…….答えを求める今どきの学生たちにとっては過酷な現場でしょう.一方で学べば学ぶほど視野が果てしなく広がり,看護の創造性・自律性・独自性を存分に発揮できるおもしろい領域ともいえます.私も臨地実習の場で患者さん,実習指導者さん,看護師長さん,スタッフ看護師さん,そして学生から多くのことを学ばせてもらっています.
「患者さんの役に立ちたい」
はるか昔話でもう時効でしょうからぶっちゃけますと,私は学生の頃,かなり自由な実習をしていました.受け持ち患者さんと同室の白血病を患うヤンキー風な高校生の女の子が「ディスコ(今のクラブでしょうか)に行ってみたい!」と言えば,教員に内緒で外泊届を出してもらい,私の服を貸し,同級生も誘って一緒にディスコを満喫し,私のアパートに雑魚寝状態で泊めました.
また,同級生の受け持ち患者さんが,ひどい口内炎のため水分摂取さえままならない状態で「たい焼きが食べたい」と言えば,2人で真夏の市内をすみずみまで探し回りました.ようやく今川焼を見つけて遅くに届けたところ,食べるのが困難ながらも喜んでくれた表情を,おぼろげながら覚えています.
在院日数の短縮化に伴って入院患者さんの重症度が高くなり,医療安全やリスクマネジメント,守秘義務や個人情報保護の観点等々から,実習環境が年々シビアになった今,「もっとのびのび実習させてあげたい!」というジレンマと闘っています.
そう思うがゆえに,今どきの若者たちが,ピーンと緊張感張りつめるナースステーションや,なかには余命宣告された方もいらっしゃる患者さんのベッドサイドに逃げずに行くことができているだけで「えらい!」というのが本音です.
私は破天荒な実習体験を経て初めて看護師になろうと決断しました.どんな些細なことでも患者さんの「役に立ちたい」と心底思うのが看護の原点だと思っています.