お役立ち満載

サイボーグ父さんの『患者道』

第7回
看護師をてこずらせた手術後24時間安静

サイボーグ父さん(60代,会社員)です.
患者目線で,現在の高度な医療を体験して感じたことをお伝えしていきます.

傷口は結構痛む?

 ICDを植え込む手術の終了後,ストレッチャーに乗せられて病室に戻ると,しばらくして主治医が説明に来る.

 

「手術は無事に終わりました.左胸の傷口がふさがるまで,ベッドの上で絶対安静です.とくに明日までは.左腕もできるだけ動かさないでください.抜糸はおよそ1週間後.その際に植え込んだICDの作動テストをします.そこで問題がなければ退院という段取りになります」

「このぐるぐる巻きはいつまでですか」思わず尋ねる.

「順調に行けば明日外すことができます.ただ今日と明日くらいは,傷口は結構痛むと思いますので,痛み止めの薬を用意してあります.痛みがひどいようでしたら,看護師さんに言って出してもらってください」

 

 その後,遅い夕食.上体も起こせず,ベッドの上でまったく水平に姿勢を保ち,小さく刻んだものを妻にスプーンで口に運んでもらう.飲み込んでもそのあと食道を横に移動することになるので,上体を起こしているときに比べ,なかなか進まない.ただ食欲はあるので,時間はかかったが完食した.食後,看護師さんに痛み止めの薬をもらい,服用する.

 就寝後,午前0時ごろ目を覚まし,そのあと午前3時ごろ,体に食い込む包帯の窮屈さで,眠り続けることができなくなった.とにかく包帯が締め付ける左肩と右の脇の下が痛く,息を吸い込み肺が膨らむと,そのぶん,よけいに苦しくなる.たまらずナースコールをして夜勤の看護師にお願いする.

 

 

包帯を緩めるのはドクターだけ

 夜勤は2年目の若い女性の看護師だった.傷口ではなくむしろ左肩や右の脇の下が痛いと繰り返しサイボーグ父さんが訴えると,困り果てて,先輩の看護師を呼んできた.今まで担当してもらったことはないが,この病院のホームページで「看護師の一日の仕事」を紹介するコーナーに登場していたひとだ.

「すみません.体の向きを変えたり,タオルを挟むことはできるのですが,包帯を緩めるのはドクターでしかできないのです.痛み止めの薬を服用されますか」

「痛いのは傷口ではなく,包帯で締め上げられている左肩と右の脇の下なのです」

「痛み止めは,腹痛とかには効かないのですが,体の外側の痛みは抑えることができます」

 なるほどそうか.痛み止めというのは,ある面,体の神経を鈍感にして,痛みを感じにくくするもののようだ.服用するとほどなく傷口だけでなく左肩だろうと,右の脇の下だろうと,関係なく効いてきた.要するに「鈍感」になってきた.痛み止めがこんなに効くとは思わなかった.

 

 

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鎮痛剤の「出番」が増えていた

 翌朝の朝食の段階では,ベッドの上体の部分を30度くらい上げてもらうことができた.自分でパンを2枚と牛乳,ゆで卵,ニンジンとジャガイモを細かく刻んだスープを完食.ただ左腕は大きく曲げたり,力を入れるのは,はばかられるので,パンをつつむビニールの袋を外すのと,牛乳にストローをさすところは看護師にお願いをした.夜中に飲んだ痛み止めが午前10時ごろに切れる予定なので,食後にまた痛み止めを頼む.

 ところが日勤の新人看護師さん.なかなか持ってきてくれない.ようやく顔を出したと思ったら,

「お待たせしました.確認に手間取ってしまい申し訳ありません」

と上体を直角に折り曲げて,両手で痛み止めの薬を差し出す.痛み止めは効果があるぶんだけ,服用は注意が必要で,先輩看護師への確認に手間取っていたらしい.

 この後のレントゲンには別の助手さんが車いすで連れて行ってくれた.レントゲン室に向かう道すがら,話してくれた舞台裏と言うと,

「あなただけじゃありませんよ.昨日手術した患者さんで,包帯が食い込み痛みを訴えるひとがほかにもいらっしゃったので,鎮痛剤の出番が増えたのです」

 レントゲンの結果,植え込んだICDから血管を通って心臓に伸びる2本のリードという電線の位置は正常で,ずれたりしていないことが確認できた.

 待望の主治医が病室に顔を出したのはその日の昼過ぎ.包帯をはずし,傷口を確認.消毒をする.

「大丈夫ですね.レントゲンの結果も血液検査も問題ありませんでした.ご自分で歩いてトイレとか行って頂いていいですよ」

 ようやくぐるぐる巻きの状態からは解放.歩くこともできるようになり,だいぶ気分が楽になる.