今知りたい医療・看護のこと
- 第5回
- 語り手の紹介①
地域看護学を研究して15年!
地域看護学を研究して15年!
成瀬 昂 Takashi Naruse
岩本 大希 Taiki Iwamoto
看護の研究者,成瀬先生
今回は,この連載の語り手の1人である成瀬先生のお話を聞いてみたいと思います.成瀬先生は看護学の研究者であり,大学の先生です.どのようにして,大学の先生になったのでしょうか? | |
東京大学に入学し,看護師・保健師の資格を取って卒業した後に,東大病院に2年勤めました.その後,大学院に行って,修士号と博士号を取って,東京大学の教員になりました. 学部で卒業論文を書くときに地域看護学教室に入り,そこの先生方の楽しそうな様子に惹かれ研究者になることを決めて以来,ずっと同じ地域看護学教室に所属しています. | |
そんなに長く1つの研究室にいるのは珍しいですよね. |
そうですね.研究室には,前の人たちが研究してきたことをふまえ,次の人たちが研究をしていくというように,歴史的な積み上げがあります.蓄積されてきた知見があったり,10年前にほかの人がやった研究の成果が今になって現れてきたり.長期にわたってこの研究室でいろんな人を見てきたことは,僕にとって大きな財産です. | |
具体的にはどのような研究をされているのですか? |
今の研究テーマは「コミュニティデベロップメント」です.「住民のみなさんと一緒に目標を立て,課題を見つけ,解決策を見つけていくまちづくり」といえば,わかりやすいでしょうか.ソーシャルマーケティングや,ニーズアナリシス,という言葉もよく使います.住民のみなさんと一緒にまちづくりを進めるためには,看護師や保健師が持つさまざまな知識や問題意識を,よりわかりやすい形で可視化する作業が必要なことがあります.最近だと,訪問看護やデイサービスについて,「それは何? 効果は? どんな仕事?」というようなことに,取り組んできました. |
先生と研究,2つのお仕事
普段はどのようなお仕事をされていますか? | |
平日,8時から18時半まで学校に滞在しているとして,休憩時間を除いた50%は学部・大学院学生の実習や授業,あとはその準備です.15%は事務仕事,残り35%は大学院生の研究指導や自分の研究のための時間でしょうか.看護教員の中では,研究に費やす時間が長い方だと思いますが,他学部の教員からすると相当短いみたいです. | |
大学教員は研究者としての仕事が大きいイメージがあるんですけど,授業や学生の指導も多く,自分の研究をできる時間の割合は少ないんですね. |
はい,実際には今言ったよりも少ない時期も多いです.時間がとれないので,自分の研究は家事の合間を縫って,土日にしています.本を読んだり,論文読んだり,解析したりします. | |
本当は,「研究者」として雇われているのに,不思議です! |
まぁそうなんですが,それが日本の現状.東大はこれでも研究の時間が多いほうだと思います.他の先生方や学生さんも,僕たち教員の研究時間の確保にはとても気を遣ってくれるので,本当によい環境でお仕事させていただいています. |
教育を看護研究に活かす
それだけ,授業や学生の指導など,教育者としての側面がすごく求められるわけですね.でも,成瀬先生は教育の仕事も楽しんでされていらっしゃいますよね. | |
はい,教育も研究も,今の仕事は好きです. 学生さんって,僕の予想をはるかに超えた思考やレスポンスを返してくることがあるんですよ.学生が斜め上のほうからとんでもない発想をしてきたときとか,1を言って10のアウトプットを返してきてくれるときとか,「よしっ!!」て感じ. その反応は教え方で全然違うから,教え方をさぼってしまうとその分伝えたいことも伝わらず,反応もイマイチ.でも本気で教えれば,時間がかかってもある程度理解してくれて,結局それによって僕が得るものが多いので,楽しいんです. あともう1つは,教育と看護ってやっぱり似ているところが多いんです.結果がなかなか客観的に測定できないとか,目に見えないとか,今やったことの成果が後になって出てくるとか…….そういう似た点が多いから,「どうして臨床現場はこう動かないのだろう」と思ったときに,自分の教育の経験とすり合わせて考えてみると,「きっとこういう矛盾がシステム上起きているからうまくいかないんじゃないか」って研究的なが得られたりする.だから僕にとっては,看護の研究をするうえで,教育活動もとても大事なものだと思うんです. 何より,学生さんが自分の人生を迷って,選んで,進んでいく過程に携われることそのものが,僕には幸せなことで,嬉しいなぁ,って思うんです. |
教育の側面も,研究の側面も,両方あるのは悪いことじゃないということですね. | |
はい.まぁ,「もっと研究に時間を使いたい!」って思うことだってありますけどね. |
目指すものがわからないからがむしゃらに
成瀬先生の今後はどのような展望ですか? | |
今後の展望.僕は,今,学生さんたちに「10年後を考えろ」って言っていますけど,自分の10年後はとくに見えてないです. でも,見えないときにやる選択として,「がむしゃらにやる」っていうふうに今,を切っていて.何でもいいから,目についたいろんなことをやって,自分が10年後にやるべきことを探すという段階だと思っていますね.教員を5年やって,自分には教員に向いている要素もあるし,向いてない要素もあるということもわかってきました.それをふまえ,次目指すゴールを探しています. 学生は若いうちに,今はわけわかんないことでも,いっぱいやったほうがいいです.僕は今振り返ると,とにかく英語論文をたくさん書こうと思っていた時期があって,なんだか効率的に業績を積み上げてきたとはいいがたいなぁと思っているんですよ.でも,それも悪くなくて. 細く高くきれいに積み重ねたものは,どこかでポキっと折れてしまう可能性もある.それより,まずがむしゃらにいろんなことに挑戦して失敗もして,広い底辺の上に三角形に業績もスキルも積み上げていった方が,安定するし応用力もつくんだと思っています.これは尊敬する先生からいただいた言葉で,それにすごく救われています. | |
学生時代は何を目指していったらよいかわからないときもたくさんありますが,そう聞くと少し安心できますね.そういうときも周期的にくるんだとしたら,今わからなくてもいいんだと. |
10年後を見すえてプランを立てるのは,頑張るポイントを明確に効率的にするためです.やるべきことがわからない時期はいろいろやって全部頑張る! という方法もありますよ! |