今知りたい医療・看護のこと
- 第6回
- 語り手の紹介②
訪問看護 ステーションを設立中!
訪問看護 ステーションを設立中!
成瀬 昂 Takashi Naruse
岩本 大希 Taiki Iwamoto
「よりよくしたい」が原点
岩本さんはケアプロ株式会社で訪問看護事業の立ち上げに携わり,4年間訪問看護師として働いた後,今年6月,東京都江戸川区にご自身で訪問看護ステーションを設立されました.学生時代からこうなると思っていましたか? | |
全然思っていませんでした.大学生のときは政策を作る過程に携わることに関心がありました. 根本としては,「日本の医療がよりよくなること」が自分の最大のテーマです.学生の当時,「いいケアができない」とか,「私の仕事はこれでいいのか」という看護師さんのネガティブな声に触れることも多かったんです.それをきっかけに,日本の医療って,実は世界に結構誇れるものだと思うのにそんなにだめなのだろうか,もし課題があるならちょっとでもよくなるように変えていかなければならない,と考えるようになりました. 日本の場合,臨床現場で行うケアなども結構,診療報酬で決められますよね.だから,ルールを作るところを知らないと本当にいいケアやしくみが実現しないのでは,と思ったんです. |
問題は現場に出ないと見つからないような気がしてしまいますが,気になることや,本当かなって思ったことを掘り下げて調べていくことも,将来へのモチベーションにつながるんですね.学生にとっても参考になると思います. |
現場で感じたことが次のキャリアに
でも,大学にいるうちに臨床現場で働くことがすごく楽しそうに思えてきて,卒業後まずは臨床に出ました.配属されたのは三次救急病院の救命救急センターです.そこで見つけた問題や感じたたくさんのことが,次の訪問看護のキャリアにつながっています. 具体的にいうと,僕が救命救急で働いていたのは,ちょうど救急車のたらいまわしの問題が新聞で取りざたされていたような頃でした.実際の現場では,医師や先輩・上司たちの最大限の工夫とセンター全体の一致団結した努力で,可能な限り,場面によっては無理をしつつ,命のバトンを瞬間瞬間つないでいましたが,物理的に受け入れできないこともありました. 新人ながらどうしたらいいのか,いろいろ考えた結果,転床や転院,退院がスムーズにいかなければ,ICUを脱した患者さんがその次に行けず,ICUの病床が空けられなければ,初療室や救急車の受け入れが困難になることがあると気づきました.転院できないのも,転院先で退院がスムーズにいかずベッドが空かないことが要因の1つではないかと考えました. 日本のどこかで患者さんの退院が1日ズレていくことが,玉突き事故のように救急車受け入れ問題につながっていると気づいたときは衝撃でした.そして,これを改善するために1番課題なのは退院の受け皿になるべき在宅医療では,と思い調べてみると,訪問看護はとくに家に帰る患者さんにとって必要なサービスだけど,若手が非常に少なく,また24時間対応や,土日祝日対応など幅広く手厚く対応できるところが多くないという実態がありました.それなら,自分にできることがあるからまずはやってみようと救命救急から在宅へと進むことを決めました. また,現場においてとてもよい実例が積み重なれば,すばやく制度や政策に反映されることがあることもわかってきて,それなら「日本の医療がよりよくなる」には,現場の実践が最もスピーディかもしれない,とちょっと考え方が変わったことも訪問看護に進んだ理由の1つです. |
理想のステーションを自分で増やす
それで2012年から訪問看護師をされていたのですよね.訪問看護ステーションを設立しようと決めたのはどうしてですか? | |
現在,訪問看護ステーション自体は増えてきているのですが,一口に訪問看護ステーションといってもいろいろで,それぞれに強みがあります.僕は土日祝日でも,たくさんの医療機器や処置が必要な人でも大丈夫,たとえば余命が3日の人でも受け入れる,というような受け皿がもっと増えるといいと思っていたんです.あとは,ケアが必要になる手前の段階から看護師として地域の方とかかわることができるといいということも思っていました. 今一度,改めて自分がもう1つそのような場所を作ったら,世の中にそういう訪問看護ステーションが1つ増えます.そして,これを見た人がもしかしたら真似をしてくれるかもしれないし,自分もやりたいという人がいたら,僕がその手伝いをできるかもしれません.そう思って始めました. |
口で言う人は多いかもしれないけど実際にやるのはすごいです. みんなその場その場で刺激ってあると思うんですけど,その問題に気づいて,自分のものにして,将来の選択に活用するというのは,常に考えてないとできないことだと思います.柔軟な対応ですよね. | |
はたから見たらつながりがないように見えたとしても,自分の中で「日本の医療がよりよくなる」という根本は変わりません. |
経営と管理の視点
今はまさに訪問看護ステーションを設立されるところですが,何が大変ですか? | |
大変だと思うことは少ないのですが,やはり経営のことをすごく意識するようになりました. アメリカやフランスでは,独立して地域で働いている看護師がたくさんいます.そう考えると独立して収入を得ることは当たり前と思いながらも,雇用した看護師にちゃんと給料を払えるのか,やはりどこかドキドキはしています. | |
看護学部ではそういう経営のコツを習うようなことはないですしね. |
そうですね.本当に経験のないことばかりです.たとえば,起業・創業のために銀行からお金を借りるとき自治体に一部補助してもらう制度があり,それを受けようと思って,訪問看護や医療のことを全く知らない人に説明をしたりしています.すごく刺激的です. |
おもしろいですね.訪問看護は,看護師がトップに立てる唯一の医療機関で,まだまだ新しい業界です.管理者になる人の教育やサポート体制も整っておらず,たとえば,日本の看護管理の教科書って,病棟の管理の本はいっぱいありますが,訪問看護ステーションや,地域,在宅のチームの管理についてはありませんよね.教える人もまだ少ないので,今後,現場から作っていかないといけないですね. | |
そうですね.病院の管理職,師長クラスは,40〜50歳代ぐらいが多いので,認定看護管理者のような管理 たぶん,訪問看護ステーションの管理は人の配置を考えることが本質ではなくて,キャリアを一緒に考えたり,よいサービスをするにはどうするといいか考えたり……,それってケアをするのと一緒だと思います.患者さんと家族と問題を解決するのと似ていますよね.だから僕は管理とケアを重ねて,楽しんでやっています.管理をし始めて改めて勉強していることも多く,自分の看護を振り返るチャンスがいっぱいあります. |