お役立ち満載

サイボーグ父さんの『患者道』

第11回
銭湯で感電,IHの鍋に慄く~身近な落とし穴~

サイボーグ父さん(60代,会社員)です.
患者目線で,現在の高度な医療を体験して感じたことをお伝えしていきます.

リュックの紐の食い込み防止にライダーの肩当て

 体調が落ち着いた後は,もともと趣味としていた都市近郊の低い山を歩くのを再開した.心臓はポンプなので,ある程度回復すれば,むしろ適度に使うほうが良いと医師からも言われていた.心筋梗塞の患者にも運動リハビリというものもあるようだ.サイボーグ父さんは,歩くこと自体はそれほど苦にならない.ICDを植込んだ当初は,ICD本体やリードに周りの組織や血管が絡みついていなかったので,少し小走りになるだけで,左胸の植込んだ部分に結構な違和感があった.なにせ人体の組織と金属製のICDでは明らかに比重が違うので,体全体が上下するのとは異なったリズムでICDが動く.体の中でICDが弾んでいるような感じがした.しかし植込んでから半年もするとそうした違和感はかなり薄れた.

 問題はリュックの肩の紐である.左側の紐は左胸のICDの真上にかかり,ICDやリードを圧迫する.このため肩紐だけでなく腰の位置にもリュックを固定するベルトのついたタイプのものを使い,左の肩ひもは通さず,右の肩ひもと腰のベルトだけで歩いてもみたが,やはりリュックが動いて歩きづらい.そこでオートバイのライダー用の大きめの肩当てを左肩にだけ入れてから肩ひもを通し,左胸のICDのあたりにタオルをはさんでみたところ,具合がよかった.ゴム製の肩当ては通販でも2,000円程度で手に入れることができるので,非常に重宝している.

 

 

スーパー銭湯で感電

 しかし,山歩きも思わぬところに別の伏兵が隠れていた.晩秋で紅葉も散り始めたころに,友人といつものように低い山を登り,帰宅途中に汗を流すべく,とあるスーパー銭湯に寄った.サウナや露天風呂など複数の浴室のある施設で,そのなかの普通の一番大きな湯船に浸かった.気持ちが良いので少し奥に移動したところ,突然感電した.ぎょっとして慌てて湯から上がり,周りを見渡したところ,大きな湯船の奥の一角が,電気マッサージ風呂となっていた.微弱な電流を流して血行を促進させるもので,普通の人なら問題ない.ところがこちらは体の中に金属の塊があるので,まさしくビリビリきてしまった.もちろんICDが作動したわけではないし,ほんの一瞬の出来事だった.ICDに異常をきたさないかと考えなかったわけではないが,正常作動すればもっと強い電気ショックをかけて平気な機械なので,そのまま帰宅.病院にも連絡をしなった.

 ところがその少し後で参加したICD患者の会で,この話をしたところ,出席していた医師から「病院にいかなかったのですか」とお叱りを頂戴した.そのうえで医師は, 「その銭湯はどちらですか.できれば調査をしたいのですが.ただお願いをしても,断られるケースが多いのですけどね」

 とぼやいていたのが印象的だった.

 

 

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鍋を頼むとテーブルにIH

 会社で普通にオフィス・ワークができるまで,回復すると,仕事がらみの夜の会合にもぽつりぽつりと顔をだせるようになった.しかし,ここでも今までは気に留めなかったものが,圧迫感を感じさせるようなになる.

 秋冬の食事の定番の一つは鍋物.このときは和食のコースの最後に土鍋でおじやを作ることになった.しかしガスコンロなどは出てこない.テーブルの中心の色が茶色く濃くなっている部分にダシを張った土鍋がおかれ,お店の人がテーブルの下のスイッチを入れた.

「これってIHですか?」

 サイボーグ父さんはその瞬間はっとして,思わず足をつっぱり椅子ごと後ろに下がって,テーブルから離れる.

 お店の人は一瞬怪訝そうな顔をしたが,すぐにお仕事スマイルに戻り,

「そうです.まだ熱くないですが,間もなく煮立ちますので,それまでは蓋を取らないようにお待ちください」

 と説明し,具材をテキパキと足して最後に蓋をした.

 同席した3人が一斉にサイボーグ父さんに視線を集める.

「俺,すこし離れていただくから.IHはICDに干渉する恐れがあるので……」

「そうか.食事のメニューに好き嫌いをいうやつはいくらでもいるが,この注文を店の人に理解させるのは大変だな」

 自分が幹事をやって店を選ぶのなら別だが,そうでない場合は確かに面倒だ.こちらの事情を説明するのは,親しい相手ならできるが,そうでない場合も少なくない.

 

 

息苦しいのはインフルエンザか不整脈か

 インフルエンザにかかったときも,念のため確認することは増える.

 とある冬の日,熱っぽいので体温をはかると38度9分.自宅の血圧計で測ると,血圧自体は正常だが,脈拍が100を超えて,心なしか息苦しい.これがインフルエンザによる発熱に伴うものならば問題ないのだが.

 かかりつけの病院に電話すると,夜間の外来があるので,念のためそこでチェックをすることになった.タクシーを呼んで,ものの15分で病院についた.通常の外来とは別の,夜間の外来用の入り口から入る.診察室もいつもと違うところ.厚着してその上にダウンコートを着ているが,寒気がする.事情を説明してあるので,鼻から管を入れて液を吸引する吸引するインフルエンザのチェックに加え,心電図とレントゲンも撮った.検査の結果を,人影がまばらで,薄暗い待合室のソファに横たわって待つ.

「お待たせしました」

 ジーンズとトレーナーの上に白衣を着こんだ,いかにも当直といった感じの若い医師が結果を伝えに来た.

「念のため心電図とレントゲンを撮りましたが,異常はありません.心拍が少し早いのはインフルエンザの発熱のせいかと思います.タミフルを出しますのでお大事に」