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看護教員がおくるリレーエッセイ

第2回
臨地実習でしか学べないこと

瀬戸 奈津子 Natsuko Seto

関西医科大学看護学部設置準備室 教授

患者さんに真摯に向き合う姿勢

実習病棟の看護師長さんが学生カンファレンスで言いました.「あなたたち,こんなに1人の人のこと考えたことある? 寝ても覚めても頭の中が受け持ち患者さんでいっぱいでしょう.お父さんお母さんだって,恋人だって,こんなにとことん,他人のことを考えたりしないと思うわ」.その通り! 実習期間中は学生にとって1人の受け持ち患者さんに徹底的に向き合う貴重な時間です.看護師になったらそうはいきません.

 

昨今,「将来複数の患者さんを受け持つのだから,学生のうちに複数の患者さんを受け持つ実習をしてはどうか」との意見もありますが,それでは,かけがえのない時間を過ごすことができません.苦しくても決して逃げずに,考えに考え,悩みに悩んだからこそ,答えに近いものが得られるのだと確信しています.

 

「ああ言えばこう言うかも……という妄想看護(と学生に伝えています)ではダメ,必ずそれは患者さんにとってどうなのかを本人に確認する.診断がつかなくても患者さんに苦痛症状があれば,なんとか軽減できる看護を考える.病態の知識が不足しているなら,睡眠時間を削ってでも勉強して,患者さんのための看護計画を立ててくる.あまりにとんちんかんなら指導者さんや教員がフォローするから,とにかくやってみる.患者さんの反応を見て違うと思えば,次の手を考えてくる」.この一連の試行錯誤こそ臨地実習の醍醐味です.

 

頭の中で完結するのなら,学内のペーパー事例で十分.とにかくベッドサイドに行き,一歩踏み出す勇気が求められます.
実習最終日に学生と一緒に患者さんにご挨拶に伺うと,お互い涙を流して別れを惜しむ光景が見られることがあります.実はそんなに大したことはしていないかもしれませんが,「患者さんのために」と思う姿勢が伝わったのです.その体感こそが看護の始まりではないでしょうか.
ペーパー事例ではなく臨地実習でしか学べないことを,学生のみなさんにも,少しでも多く学んでほしいと願っています.

 

(この記事はナーシング・キャンバス2015年5月号に掲載されたものです)