看護教員がおくるリレーエッセイ
- 第5回
- 患者さんに育てられる学生
松田 直正 Naomasa Matsuda
淑徳大学看護栄養学部看護学科
教員の指導よりも
学生に大きな影響を与えること
ただいま,精神看護学実習の真っ最中です.いろんな学生がいて,いろんな患者さんがいて,毎日が刺激的です.
たとえば,慢性期の統合失調症の患者さんを受け持った学生が,「妄想や幻聴そのもの」「陰性症状」「緘黙」を看護問題として取り上げ,看護目標に「妄想や幻聴がなくなる」「活動量が増える」「発言が増える」とあげたとします.
しかし,患者さんにもよりますが,薬物療法で妄想や幻聴が完全になくなることは少ないため,看護師は,患者さんが妄想や幻聴と距離をおけるように,生活に支障がない(妄想や幻聴に振り回されない)ように,看護援助を展開しています.
また,数十年にわたる長期入院の場合,陰性症状や緘黙といった状態に対して,2〜3週間看護学生が受け持ったからといって,患者さんに劇的な変化が現れ,突然活発に話し出したり,ランニングを始めたりということは少ないわけです.
看護師は,こうした患者さんに対して,毎日のかかわりのなかで,たとえ患者さんから明らかな反応がなくても,さりげなく世間話で声かけをしたり,病棟内の行事に誘ったりして,患者さんを温かく見守っています.
私は,たいていの場合,学生に早急に上記のようなアドバイスはしません.学生自身が,患者さんとかかわる中で,たとえば「患者さんは,妄想や幻聴とうまくつきあっているんだな……」「緘黙の患者さんに対して,しつこく質問攻めにしたり,常に返答を求めるような会話ばかりしていては,患者さんが疲れちゃうんだな……」と気づくのを,患者さんにご負担のないかぎり,私は待ちます.教員があれこれと指導することよりも,こうして学生自身が気づいたことは,深い理解となって,その後の看護師としての人生に,大きな影響を与えると確信しているからです.
そういった点で,私は患者さんに,心底感謝しています.学生を育てるのは,教員というより,患者さんなのです.