お役立ち満載
看護教員がおくるリレーエッセイ
- 第6回
- 患者さんに教わる人間の強さ
瀬戸 奈津子 Natsuko Seto
関西医科大学看護学部設置準備室 教授
余命を意識させられる患者さんへの苦手意識
学生のころから私は,余命を意識させられる患者さんに向き合うことが苦手でした.第2回で,実習生時代に,白血病を患う女子高生をディスコ(クラブ)に連れて行ったことを書かせてもらいました.翌々クールに受け持った同級生から,彼女の生理(出血)が止まらなくなったことを聞きました.病院につづく校庭の道は鮮明に思い出すことができますが,私は最後まで,病床に行くことができませんでした.当時の私には,しばらくたって隣県にあるお墓参りに出向くのが精いっぱいでした.
また,病棟看護師時代には,肝臓がんで肝動脈塞栓術を繰り返し,肝不全が進んだ患者さんから飲みに誘われました.退院後,病棟に偽名を使って電話をかけてこられて,1度だけ飲みに行きました.飲み屋さんで「わが人生に悔いなし」を歌ってくださった翌日,緊急搬送され,私の病棟に空床はなく1階上の病棟に入院されたと聞きました.上って会いに行こうかどうか見つめた階段ははっきり覚えていますが,このときも,最後まで病床に行くことができませんでした.
そんな私は今,急性期病院の消化器・呼吸器内科病棟で,9割ががん,そのうちの何名かは余命を宣告されているという患者さんを受け持つ実習を,4年間担当しています.
一生をかけてきた仕事,長年連れ添った夫婦間でしかわからない関係性,支えるべき家族のために死ぬわけにはいかない事情などなど,学生と一緒にベッドサイドで話を聴かせていただきながら,胸が一杯になって逃げ出したい衝動を自覚します.けれども,決して逃げません.学生のモデルになるという職責もありますが,向き合わなければ看護が始まらないことを,実習を通して教わったからです.
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