お役立ち満載

今知りたい医療・看護のこと

第1回
介護保険の話①
知っておきたい介護保険

成瀬 昂

成瀬 昂 Takashi Naruse

東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 地域看護学分野 助教

岩本 大希

岩本 大希 Taiki Iwamoto

看護師・保健師

サービスを受ける側にもなる

岩本 大希

みなさんの中には,介護保険はあまり関係ないと思う人もいると思います.僕も訪問看護を始めるまでは,テレビで聞くくらいでした.

でも,介護保険の保険料を徴収されるのは40歳から.サービスを受けるのは普通は65歳以上ですが,がんの末期や脳梗塞の後遺症のある場合など,生きていくのに介護が必要とある程度わかっている人は,40歳からでも受けられます.それはもう介護保険を使う可能性がある人として,国が制度を整えているということです.

仮に,自分の親が片麻痺になり病院から家に帰ってきたら,「いろいろ大変だ.ケアマネさんと相談して,どのサービスを使うか考えなきゃ」と,介護保険のサービスを利用して,家族やサービス提供者たちと一緒に生活をするかもしれないわけです.
そういう状況を想像すると,介護保険の見え方がちょっと違ってくる気がするんですよね.

成瀬 昂たとえば,2015年の改正以降は,要介護3未満なら,もう特別養護老人ホームには原則入れなくなりました.制度改正の影響はやはり大きいですね.
さらにみなさんはナースの卵だし,やっぱり知らないと大変です.

 

 看護師には制度の知識が必要

成瀬 昂

でも,なかなか制度を学ぶモチベーションが上がらない人もいるのではないでしょうか.反対に,生理を勉強するモチベーションがわかない人もいます.大抵どっちかにしか興味がないのですよね.
そんなとき僕は,「おいっ,みんなプロなんだぞ」と言っています.
プロは人や地域,制度を評価することに責任を負っています.それには相手の立場に立つことが大切で,どんな痛みがあって,どんな制度の補助を受けて,どんなところで暮らしているかを知り,その人たちの感じている課題を推察しなければいけません.
一方で,客観的に相手の状態を判断するためには,その人が幸せって言っていればいいわけではなく,専門家として,その人が自覚していない課題も推察しなきゃいけないと思う.
そのためには,知識がいります.健康って痛みがなければいいとか,制度があってお金がもらえていればいいということじゃないから,そのために勉強するんです.

 

 患者さんをサービスにつなげる

岩本 大希

僕は訪問看護をやっているので,利用者の環境を整備するのにどのサービスが当てはまるかとか,どうやったらその人が使えるかを考えています.
プロとしては,ケアマネジャーに看護師としての提案ができるレベルで制度を理解してないと,看護師としての価値が発揮できなくなってしまうと思うんです.しかも僕たち看護師はその制度からお金をもらっています.
訪問看護師だけではなく,病院のナースも,今後退院支援が重要になっていくなかで,介護保険にかかわる機会がどんどん増えると思います.
今は病棟ではあまり介護保険にかかわっていなくても,退院調整・支援のときに知らないままでは,たとえば受け継ぐ側の在宅ケアにかかわる人から,「家に帰ったら介護保険のサービスや居宅サービスが必要だと明らかなのに申請していないの?」「病院では退院した後の生活をそもそも考えてないのかな」ととらえられてしまうかもしれません.それは病院の看護師にとっても不本意ですよね.

成瀬 昂

患者を不幸にしないため,病院で働く場合でも,どういう場合に申請しておいたほうがいいか,わからなければとにかく相談するとか,まずはケアマネさんにつないでみるということも,必要かなと思います.

 

(ナーシング・キャンバス Vol.4 No.4より)