今知りたい医療・看護のこと
- 第10回
- 働き方の選択
広い看護のフィールドを想像しよう
広い看護のフィールドを想像しよう
成瀬 昂 Takashi Naruse
東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 地域看護学分野 講師
岩本 大希 Taiki Iwamoto
ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 看護師・保健師
看護の領域は縦横無尽に広がっている
看護師の仕事の選択肢は縦横無尽にいろいろありますね. | |
四方にキャリアが広げられており,スキルアップも単純なラダーになっているわけではありません.だから学生には看護師のキャリアの軌道が見えにくいんですよね. | |
学生のみなさんが看護の領域全体を想像しやすいように,少しでも可視化できたらいいですよね. | |
そうですね.私は看護学の研究者なので,看護の領域の中の表現しづらいことをわかりやすく分類し,みんなが共通して使える評価スケールを作ることにも仕事の1つとしてよく取り組んでいます. 今回はこの場を利用して,みなさんが看護のフィールド全体を想像できるような図を作ってみましょう. | |
「はたらきかける範囲」×「やること」で想像する
まず,1つ目の軸が必要です.1つ目の軸は「はたらきかける範囲」にしましょう.その人が「動かす範囲」ともいえます. 看護師はみんな,体の中からその人の地域での生活までを,包括的に考えることはもちろんなのですが,どこに焦点をおくかは,どこで働くかによって変わります. | |
図を見てください.左下の赤(●)がたとえば感染症だとして,患者さんの隣に立って感染予防行動を教えるというように,患者さんのすぐ近くからはたらきかける看護師もいれば,学校や地域で感染予防対策の講習会を開いて何十人かにはたらきかける人もいます.さらに,全世界に向けた感染予防対策を広めるキャンペーンを企画するなどのように,個々の患者さんと距離的には遠いところからはたらきかける看護師もいます. 近くからのはたらきかけだと,対象となる人は少ないですが,すぐに大きな効果が得られます.遠くからのはたらきかけだと多くの人に届くけれど,同じことをしてもらうためにとても大きく動く必要があります. | |
この図では,その「はたらきかける範囲」を「からだ」,「家族・知人」,「コミュニティ」,「都道府県・地方」,「国・世界」の5段階で分類してみます.コミュニティとは,職場や学校,その人が住むまちなどです. | |
「はたらきかける範囲」が同じでも,そこでそれぞれの看護師が行っている内容はさらにさまざまに分かれます. ここでは,2つ目の軸を看護師が「やること」として,わかりやすく「病気にならない支援」「病気をなおす支援」「病気とつきあう支援」の3つに分類してみます. | |
どの交点にも看護の仕事はある
今,2つの軸ができましたが,それが交わるところはどの組み合わせでも看護の仕事はあるのです. たとえば,「所属する組織や集団」の範囲で「病気にならない支援」に取り組んでいる例には保健師が行う地域づくりの仕事があげられます.救命救急センターで看護師がアセスメントや処置をしている仕事は,主に「からだ」の範囲にはたらきかけて,「病気をなおす支援」をすることだといえます. この図の上に縦横無尽に看護の仕事があって,それぞれの看護師は,その仕事を何度か移ってキャリアの軌道を描いているイメージなのです. | |
1つの「はたらきかける範囲」と「やること」の組み合わせに限らず,いくつかの「範囲」やいくつかの「やること」にまたがっている仕事もたくさんあります. たとえば病院の外来看護師は病気を治す支援が必要な患者さんも病気とつきあう支援が必要な患者さんもみています.患者さんのからだをみることも,患者さんの家族にはたらきかけることも同じくらいの比率で行っていることも多くあります. これを見て,みなさんがいろいろな仕事がありそうだと感じたり,「病棟」や「学校の科目」とは違うもう1つ別の視点で看護の領域を想像できたりしたらいいなあと思います. | |