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第2回
介護保険の話②
介護保険の改正って?

成瀬 昂

成瀬 昂 Takashi Naruse

東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 地域看護学分野 助教

岩本 大希

岩本 大希 Taiki Iwamoto

看護師・保健師

保険には改正が必要

成瀬 昂

まず大前提として,日本では医療のサービスも,介護のサービスも,基本的に保険によって支えられています.そして,保険には決まりごとがあります.それは,時代に応じて新しく,よりよく変えていくということ,つまり制度改正をすることです.介護保険は2000年に始まって以来,2006年,2012年,2015年に改正法が施行されています.

岩本 大希

前回,2015年に行われた改正で一番わかりやすいポイントは,重度者への支援の重点化と在宅への移行を受けて,特別養護老人ホームに要介護3以上でないと入所できなくなったことではないでしょうか.退院したあとに過ごす場所を探すときに,2015年より前は要介護3未満でも空席待ちをすることはできましたが,2015年4月1日をもって,入所は原則要介護3以上の人のみと,はっきり変わりました.

成瀬 昂

制度改正を具体的に進め,よりよい制度が十分に機能を果たせるようにするためには,実際に介護サービスを提供する事業者の方々に直接働きかけたいですよね.そのために,制度改正に加えて,事業者の収入などにかかわる介護報酬も改定されています.

  

なんでそんなに変わるの?

 

でも制度改正や報酬改定が多いですね.

岩本 大希

僕はそれ自体はすごくいいことだと思います.そのつど社会の状況に合わせて制度を変えていくということは,常に最善に向けて軌道修正しているということです.どんどん社会経済や世論が変わっていく中で,古くなっていく制度をそのままあてはめて使うのは,みんな嫌ですよね.

成瀬 昂

はい.社会の刺激を受け,日に日に制度が成長発達している段階だと考えれば,まったく変化がないよりいいことだろうなと感じます.

でも一方,改定・改正によって,利用者さんや働く人など介護保険にかかわる人は経済的に大打撃を受けるときもあり,あちらこちらで一喜一憂の声があがっています.報酬改定に合わせて少しでもよい経営をするために,介護事業者が頻繁に事業所内のシステムを調整しなければならず,負担が大きい,という声もあります.そうして起こっている問題に目を向けなければいけないことも事実です.

岩本 大希

もしかすると,いずれは完成度が高まってきて,改正しようと思ったけど,パーフェクトだったから変えませんっていう年が出てくるかもしれませんね.

成瀬 昂

学生のみなさんにとっては,頻繁に勉強する内容が変わると,やっぱりちょっと面倒に感じてしまいますよね.もし,大変だなと感じているのなら,「改正・改定が起こった理由や,変更のポイントはどこですか」と先生に聞いてみるといいかもしれません.

ポイントがわかれば,その中から興味のあるところとか,自分の受け持ち患者さんにかかわることを勉強すればいいと思います.大筋を先生に習い,自分が関心をもったところは深く勉強してみて,徐々に知識を広げていってみてはどうでしょうか.

 

介護保険ってすごい制度

岩本 大希

介護保険ってもともと,利用者や家族が自分でサービスを選ぶっていうのを醍醐味の1つとしてスタートしているんですよね.民間のいろんな訪問系サービスや通所系サービスなどを自分で好きに組み合わせて,9割は税金や保険給付で賄われるから生活できるというしくみです.ケアプランを立てるのはケアマネジャーか家族か自分で,僕たち看護師は立てられません.

そう見ると,コンセプトとしてはものすごくおもしろくて,素敵なサービスです.それを縦横無尽に使うっていう発想を持てると,使う側としてもいいなと思います.

それに,介護保険はカバーする範囲がすごく広いんです.病院,クリニックで使うのは医療保険ですが,入院とか,治療が必要なわけではないけど,人や社会の手を借りなくてはならない状態になったときに必要なサービスは,介護保険などで賄われるんです.若い人は別ですが.

成瀬 昂

この手広さ,世界的にも珍しい制度ですよね.

岩本 大希

高齢者の介護に限定すれば,日本は相当整っているなと感じます.もちろんいろんな課題はあって,完璧ではないとは思いますが,世界に誇れる制度だと思います.

そして訪問看護は,その介護保険だけでなく,医療保険でも利用することができます.つまり,訪問看護師は,介護保険と医療保険のどちらからも収入を得るという非常にまれな仕事です.医療が中心となる治療の場面でも,介護が中心となる自宅での生活の場面でも,どちらでも活躍を期待されているということですよね.訪問看護のそういう点,僕はずっとおもしろいなと思っています.