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国際化社会と看護

第1回
入浴習慣の違い

小笠原 広実 Hiromi Ogasawara

医療法人 偕行会法人本部海外戦略部
公益財団法人 日本アジア医療看護育成会(研究員)

「入浴」という言葉からイメージする行為の違い

この失敗から,私は2つのことを学ぶことができました.

 

インドネシアでは,普通は水で体を洗い,湯は使いません.暑い国でもあり,給湯器を備えている家に住んでいるのはごくわずかな人という事情もあるかもしれません.また,イスラム教では,お祈りをする前に水で体を清めるのですが,それを「マンディ」というのです.

 

国際化社会と看護 図1

 

おそらく,「マンディはOK」と言った看護師は,そのようなイメージを描いていたと思います.でも,日本人である私は,熱い湯につかって温まる【入浴】を思い浮かべたのです.

 

ここから学んだことの1つは,同じ言葉でも,生活習慣や文化によって,違うイメージを描くことがあるということです.

 

誰しも,自分の経験こそが常識だと思ってしまうものです.でも,自分の考えとは違うかもしれないから聞いてみようと思えると,そこから理解が深まるのです.わかった気にならずに,相手の思いを知ろうとするかかわりから,よりよいコミュニケーションが生まれるのです.

 

もう1つは,知識があっても,人間は自分の都合のいいように解釈するということです.これは,他者の健康に責任を持つ看護師としては,肝に銘じておくべきことです.

 

私の場合も,肝細胞が壊れている状態で温かいシャワーを浴びることは,体力を消耗させ,血行動態に大きく影響を与えると理解していました.また,シャワーの後に疲労感を感じていたにもかかわらず,発熱で汗をかいて気持ちが悪かったため,“いいと言われたから”と甘く考えて,いつも通り温かいシャワーを浴びてしまったのです.

 

看護師として患者さんや家族に説明をするときには,相手の生活を知り,またどのように受けとめたのかを確認しながら伝えないと,正しく伝えることができないことを再認識した体験でした.

 

 

(この記事はナーシング・キャンバス2016年4月号に掲載されたものです)