国際化社会と看護
- 最終回
- 異国での子育て
小笠原 広実 Hiromi Ogasawara
医療法人 偕行会法人本部海外戦略部
公益財団法人 日本アジア医療看護育成会(研究員)
薬の渡し方にも違い
また,薬の渡し方の違いから,母親が不安を募らせたケースもありました.風邪症状の3か月の乳児を連れて来院した日本人の母親への対応に,インドネシア人の医師と看護師が困っていました.母親は,クリニックで処方されたシロップ薬の箱に「1歳以上の適応」と英語で書かれているのを見て,不安になっていたようです.医師は,処方どおりの量を守れば大丈夫,日本で使っている薬と同じ種類のものであると説明するのですが,納得できない様子でした.
母親が不安になった箱の記述を見ると,インドネシア語表記で,「1歳以上,ただし医師の処方による場合には,その指示に従うように」と書かれていたので,その記述を示して説明をしました.薬局で購入できる市販薬は,一般向けに余裕を持った指示になっていること,使われている薬剤は日本と違いがないこと,医師の指示に従えば使用しても大丈夫なことを伝えると,やっとわかってもらえたようでした.
このやり取りをしながら,日本の小児科医院で出される小児用のシロップの容器が思い浮かびました.1回量がわかるように容器に線を書き入れて渡されることが多いようです.薬局に陳列されている箱のまま患者に渡すことはないでしょう.
インドネシアでは,注射器や薬液のアンプルを準備するときには,必ず患者の目の前で封を切るのが一般的なようです.使いかけでなく新品であることを患者に見せるためです.それを考えると,容器に移し替えるのではなく新品の箱のまま患者に渡していたことも納得できます.でも,その事情のわからない母親にとっては,箱に書いてある適応年齢の注意書きが目に留まり,間違いではないかと驚いてしまったのだと思います.
医師から,「薬はあくまでも症状を軽くするのを助けるものなので,一番の薬はお母さんのおっぱいですよ.いっぱい飲ませてあげてください」と言われて,母親の表情に笑みがこぼれました.