お役立ち満載

国際化社会と看護

第1回
入浴習慣の違い

小笠原 広実 Hiromi Ogasawara

医療法人 偕行会法人本部海外戦略部
公益財団法人 日本アジア医療看護育成会(研究員)

看護学生のみなさんは,患者さんの生活過程に目を向け,回復を目指してより健康な状態に整えていくために必要な学習をしています.

 

これから,いろいろな患者さんと出会う中で,自分とは生活習慣や感じ方・考え方の異なる人と出会い,困惑することもあるでしょう.

 

今の日本は,経済連携協定(EPA)によりインドネシアをはじめ,フィリピン,ベトナムの看護師がやってくる時代になりました.今後,みなさんも異文化で教育を受けた看護師と一緒に仕事をする機会があるかもしれません.

 

私は10数年前,家族の都合でインドネシアに3年ほど住む機会がありました.ここでは,“普通の生活”と思っていた常識が大きく覆され,びっくりすることの連続でした.そして今は再び,インドネシアの首都ジャカルタで,看護にかかわる仕事をしています.

 

こうした異文化との出会いは,「個別的な生活過程を大切にし,患者さんを尊重する看護をしていきたい」と学び続けてきた私にとって,とても視野が広がる体験となっています.

 

本連載では,私が異文化の中で学んできたことを,みなさんにお伝えしていきます.

 

 

「入浴」はOK?

今回は,私が以前インドネシアでA型肝炎にかかり,入院を余儀なくされたときの体験をお伝えします.

 

インドネシアでは,まだA型肝炎の患者さんが多いのが現状ですが,当時,私は引っ越しまで時間がなく,日本でワクチンを受けていませんでした.

 

インドネシアで体調が悪くなり病院にかかったところ,血液検査でAST,ALTの値が桁違いに高く,肝細胞が大量に破壊されている状態であることを示していました.肝臓に十分な血液を届けて治癒過程を促進させるには,ベッド上安静が必要です.

 

外国人ということで,「VIPクラス」という,トイレ・シャワーがついた,とても広い病室に入院になりました.

 

「ベッド上安静」であるはずなのですが,インドネシアの病院の看護師は,「トイレやシャワーを使っていい」と言ったのです.正確には,インドネシア語で「マンディをしてもいい」と言われました.

 

「マンディ」とは,辞書でみると「入浴」という意味であったため,私は「入浴がOKである」と受け止めたのです.日本であれば,「ベッド上安静」は入浴も禁止となっているため,「本当にいいのですか」と何回も聞きましたが,それでも看護師は,「もちろんOK」と言うのです.

 

そこで,私は椅子に座って温かいシャワーを毎日浴びました.その結果,数日後にシャワー中に急に気分が悪くなり,倒れてしまったのです.私はひどい血圧低下を起こしていました.幸い廊下を通りかかった看護師が異常に気づいてくれて,ベッドに運んでくれました.