サイボーグ父さんの『患者道』
- 第2回
- 新人看護師の餌食!?~5月は医師も看護師もデビューシーズン
サイボーグ父さん(60代,会社員)です.
患者目線で,現在の高度な医療を体験して感じたことをお伝えしていきます.
入院して最初に運び込まれた病室には,日替わりで担当看護師が付くが,少なくとも3人は女性の新人さんだった.皆さん明るく一生懸命で,よくやってくれるのだが,そこはそれ新人.当然,限界もある.鬼門は採血.どうもサイボーグ父さんの腕は,慣れていないと血管を見つけにくいらしい.以前も若い研修医に点滴の針を刺すのを失敗され,挙句の果てに「あなたの血管は見つけにくい」と言われたことがある.その時は「自分の下手さを棚に上げて人の血管に文句をいうな」と腹を立てたものだったが,この新人さん達が,一度で採血の針を入れることができないケースが何回かあったことを考えると,やはりサイボーグ父さんの腕は血管を見つけにくいのか.
ある時は新人さんが右腕でトライして失敗.そこで先輩登場.さすがに貫禄で1回で決めてくれたが,その先輩の解説がたまらない.
「5月は新しい年度に入って,医師も看護師も配属されたばかりの『新人』がどうしても多い時期なのです.新人さんの餌食にされちゃったみたいでごめんなさいね」
なるほど,どこの病院にせよ入院するなら,できれば5月は避けたほうがよさそうだ.できないけどね.それでも新人さんたち,テキパキとやっているように見えるが,その中の1人によると
「もう,病室の外に出ると先輩から怒られてばっかりです……」
こっちは「そう,大変だね」と一応相槌は打つものの「まあ,そりゃそうだろう.ここは人の命を預かる病室.厳しくて当たり前.それだけ新人を先輩がきちんと見ているということか」と妙に納得するというか,安心するというか.
後日一般病棟に移ったあとで,上手な男性の看護師に採血の針を刺すコツのようなものがあるのか尋ねたところ「新人さんと私が違うとしたら,血管の見つけ方と刺した回数でしょう.血管はたたくと浮き出てくるのです」という説明だった.ちなみにうまく入らないことを「血管に逃げられる」という言い方をすることもあるようだ.いざ針を刺そうとすると血管が微妙に動いてしまうということか?
「それではまた」と明るく
その一般病棟へ移動したのは入院の2日後.心室頻拍の再発もなく,症状が一応落ち着いたから.移動前,その日の担当の新人さんがおもむろに
「もう一度感染症の検査をお願いします」
「もう一度」ということは,おそらく救急車で運び込まれた際の一連の処置の中で行われたのだろうが,残念ながら記憶にない.
「どうやるんだっけ」と尋ねると,少し柄の長い綿棒を取り出して
「これです.これで喉の奥の粘膜の唾液を採取するのです」
ニコニコしながら言われると,こちらはすぐに服従.ところが唾液を採取した綿棒をケースに収めようとしたところ,手元を誤って落としてしまった.
「あーあ」
「すみません.もう一度お願いします」
2回目で無事に終了.
正午ごろに一般病棟に移ることになり,この新人さんと男性の先輩看護師の2人で,車いすで送ってもらう.別れ際に新人さんが
「それではまた」と明るくご挨拶.
こちらと言えばチャーミングな看護師にニコニコと見送られて当然悪い気はしないのだが,心の中では
(待てよ.「また」って言われたって,救急車で運び込まれないと救急患者用の病室にいる君にはまた会えないのだけど……)という思いが頭をよぎり
「またって言ってもねー」とあいまいに苦笑いをする.隣の先輩看護師がすぐに気がついて
「お大事にって言え!」と新人さんを軽く突っつく.
「あ,すみません.どうぞお大事に」と上体が直角に曲がるまで頭を下げる新人さんを尻目に,迎えに来た一般病棟の看護師に車いすごと引き取られて,病室へ.心室頻拍の治療はこれからが本番だ.