サイボーグ父さんの『患者道』
- 第15回
- ICDを止めて? 歯科治療
サイボーグ父さん(60代,会社員)です.
患者目線で,現在の高度な医療を体験して感じたことをお伝えしていきます.
歯を抜くときは血液サラサラの薬は止める?
朝起きたら左の上の奥歯が痛くて歯茎が腫れている.念のため歯科の診察券と保険証をもって会社には行ったものの,案の定,昼前に我慢ができなくなり,かかりつけの歯科医院に無理やり夕方の診察の予約を入れてもらう.金冠をかぶせてある歯の根に問題があるようだ.3本ある歯の根の1本が割れていて,そこが炎症を起こしている.このため根の少なくとも1本を抜く必要があるという.そこで問題になるのは,サイボーグ父さんが心房細動で血液サラサラの薬を服用していることだ.その薬の包装には「他院,他科を受診する際には,本剤を処方されていることを必ず医師・歯科医師・薬剤師にお伝えください」と囲みで注意を喚起する記載があった.抜歯のときはこの薬の服用を一時中断する方が良いのか.そのほかのリスクはないのか.かかりつけの歯科医師が,サイボーグ父さんの循環器内科の主治医に確認をすることになった.
歯科医師から主治医へ手紙で問い合わせ
病院も診療科目も違う忙しい医師同士が,同じ患者の容体に関する情報のやり取りとなるが,このケースでは,書面での問い合わせとなった.電話となるとそれぞれが時間を合わせる必要があるし,情報の漏洩リスクなども考えると電子メールなどよりもこのアナログな方法が,結局手間がかからず,一番確実なようだ.
懸念されたのは,血液サラサラの薬よりも,歯科で使うヤスリの方だった.循環器内科の主治医は,歯科治療の内容を聞いて,サイボーグ父さんの体に埋め込んだICDのメーカーにも確認し,歯科治療用のヤスリによる「誤作動のリスクを否定はできない」という回答を得た.そこで,抜歯の際に,メーカーの担当者が歯科医院に赴き,サイボーグ父さんのICDをいったん止めて,抜歯後に再び動かすという段取りを検討したそうだ.しかしこの場合も,ほとんど可能性は低いのだろうが,抜歯の最中にサイボーグ父さんが心室頻拍を発症したら,対応できないというリスクが残る.
歯科と循環器内科のある大学病院を紹介
サイボーグ父さんの循環器内科の主治医から,夜に電話があった.やはり歯科治療のヤスリはICDを誤作動させるリスクがあるため,循環器内科と歯科の両方の診療科目がある大学病院を紹介してくれるということになった.これならば抜歯の最中に心臓に何か問題が起きても対処できる.想定されるリスクに漏れなく目配りをした方法は,患者のサイボーグ父さんにもすとんと胸に落ちる「解決策」だった.紹介状を書いてくれるというのでお願いする.
翌日,かかりつけの歯科医師に説明するとともに,こちらにも紹介状を書いてもらうようにお願いした.世の中意外と狭く,実はこの歯科医師はその大学の出身ということで,話が早い.