看護教員がおくるリレーエッセイ
- 第8回
- 慢性疾患とともに,生きるということ
瀬戸 奈津子 Natsuko Seto
関西医科大学看護学部設置準備室 教授
短期間での情報収集とアセスメントの難しさ
2型糖尿病で糖尿病腎症第4期の80歳代女性,Cさん.受け持った学生のDさんは,実習を振り返って,自分の情報収集とそれに対するアセスメントに問題があったと述べています.
「まず1週目に,タンパク質,塩分,カリウム,エネルギーを1つひとつの看護計画に分けて立案してしまった.食生活全体を通して,全体から問題を導き出すことが重要であった.日々の記録は,塩分についての計画を行っているのだからと,頭の中が塩分制限のことでいっぱいになり,ほかの項目について少ないながらも情報をとっていたにもかかわらず,アセスメントを行えていなかった.
2週目になって,Cさんの発言をもう1度アセスメントし直すと,Cさんは塩分摂取について気をつけていらっしゃって,問題視するほどのことではなかったということもわかった.情報収集し,指導を実施し,また情報収集して……という過程を振り返ってみると,計画を軌道修正していくチャンスはいくらでもあったのに,反映できていなかった」と考察しています.
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慢性疾患とともに何十年も生きてこられた患者さんの軌跡の中では,学生が実習でかかわらせていただく数週間など“点”にしかすぎません.その中で学生が患者さんに何かをしてさしあげようというのは,土台無理でしょうし,患者さんから「慢性疾患とともに,生きるということ」について教えていただく姿勢が基本となるでしょう.
一方で,慢性心不全の増悪で再入院された70歳代女性のEさんは,何年か前の受け持ち学生が作成した,使い古された塩分量早見表のパンフレットを,とても大切に持っていました.
また,インターネットで疾患について調べることを恐れていた20歳代男性の潰瘍性大腸炎の患者さんは,学生とのやりとりで,「毎食おかゆにする」という必要以上の食事制限を行っていたことが明らかになり,適切な知識をお伝えすることができました.
このように学生が役に立てたケースも多々あります.“点”のような実習期間の中で,慢性疾患をもちながらの患者さんの暮らしぶりを,どこまで丁寧にお聞きし,退院後も継続していけるような療養生活の具体に迫ることができるか……,学生に無理難題を課していると自覚しつつも,試行錯誤しながら,学生とともに果敢に実習に取り組んでいます.
(この記事はナーシング・キャンバス2015年11月号に掲載されたものです)