お役立ち満載

国際化社会と看護

第10回
看護師の判断の違い

小笠原 広実 Hiromi Ogasawara

医療法人 偕行会法人本部海外戦略部
公益財団法人 日本アジア医療看護育成会(研究員)

インドネシアに駐在し,日本で働くことを目指す看護師の支援をしています!

 

 

看護師の役割の違い

経済連携協定(EPA)に基づく看護師受入れ制度により,3年間日本に滞在したあと,国家試験に合格できずにインドネシアに帰国した看護師の中には,もう一度国家試験に挑戦したいという方々がいます.私の所属しているJAMNAでは,その方たちの再受験に向けて,学習支援や来日支援を行っています.

 

国家試験の勉強の支援をしていく中で,インドネシア人看護師と,日本の看護師の考え方の違いに接し,いろいろと発見があります.とくに,看護師として,患者さんにどのような対応が適切かを問われる状況設定問題で,その違いが大きく現れます.

 

看護学生のみなさんも,すでに臨地実習を経験され,患者さんとの対応で困ったこともあったと思います.とくに病気への不安を話され,何と答えてよいかわからなかったという経験をされた人もいるのではないでしょうか.

 

つい何か解決する方法を伝えてあげなければと焦ったり,不安をなくすように励ましたくなります.でも,患者さん自身の力を信じてその思いをよく聞いて受け止めてあげることがまず大切です.

 

インドネシアでは,家族がいつも患者さんに付き添って話を聞いていますので,専門職としての看護師の役割は,病気の回復に必要な正しい知識を提供することや,医師からの指示を守れるように教育することが重要だと考えられているようです.

 

インドネシア人看護師が日本の看護師国家試験の問題に回答するときも,「患者の話をよく聞く」という選択肢ではなく,「正しい方法を教える,指導する」という選択肢を選ぶ傾向がありました.ただ患者さんの話を聞いて,「つらいですね」というような言葉をかけることは,すぐに解決に結びつくわけではなく,看護師のかかわりとして不足しているように感じるようです.

 

指導や教育という言葉は,広い意味で考えると,その人が自分の意思で,自分の回復にとって必要な行動をとれるように支援することです.《教える》という一方的なかかわりではなく,まずはその人の思いを引き出して一緒にどうしたらよいかを考えていくことが重要です.そのため,インドネシア人看護師には,まず相手のことを理解するという原則を理解してもらわないといけませんでした.